
コロナ禍以降、「ペットブーム」と呼ばれる現象が加速しました。
自宅で過ごす時間が増えたことで犬や猫を新たに家族として迎える人が増加し、SNSでは「かわいいペットのいる暮らし」が理想のライフスタイルとして拡散されるようになりました。
しかしその一方で、ペットの流通にまつわる闇やペットショップの問題点も再び注目されています。「ペットショップ=悪?」という声が上がることもあるほどです。
本記事では、ペットショップをめぐる賛否やその背景、日本と諸外国の違い、そしてペットを迎える前に本当に気を付けるべきポイントを徹底解説します。
ペットショップに関するよくある疑問と誤解

「ペットを飼いたい」と思ったとき、多くの人が最初に訪れるのがペットショップです。
明るく清潔な店内に、小さなガラスケース越しに並ぶ子犬や子猫。
その姿に心を奪われ、衝動的に購入してしまうこともあります。
しかし、その裏にある仕組みを知っている人は少ないかもしれません。
ペットショップの流通経路とは?

日本では、多くのペットショップがブリーダーから直接仕入れるのではなく、オークション形式の市場(ペットオークション)を通じて子犬や子猫を仕入れています。
この「動物オークション」は業界関係者しか参加できない非公開の場で、1日に数百匹単位で取引されることも。
ここで重視されるのは、健康状態よりも見た目の可愛さや血統書の有無、人気の犬種・猫種であるかどうか、そして販売しやすい月齢(生後2ヶ月前後)など、いかに売れるかという条件です。
そのため、取引の早さやコスト重視のため、動物の扱いが粗雑になるケースも少なくありません。
また、オークションで仕入れた動物は輸送業者により全国のペットショップへ運ばれます。
この輸送過程でも長時間の移動や温度管理の不備など、動物にとっては大きなストレスとなる環境が発生するリスクがあります。
売れ残ったペットの行方は?

販売に適した期間に売れなかった動物たちは、値下げされたのちに店頭から姿を消します。
一般的にペットショップでは、子犬・子猫の旬は生後2〜3ヶ月がピークであり、それ以降は徐々に値下げされていきます。
最終的には「引き取り業者」に渡されたり、契約次第ではブリーダーに返品されたりします。
中には、行き場を失い、殺処分や遺棄といった悲劇に繋がる例も報告されています。
こうした商品としての命の扱いに対する倫理的問題が、ペットショップに対する批判の一因となっています。
また、売れ残りを減らすため、過剰な値下げやセールといった販促施策が繰り返され、ますます動物の命が「消費対象」として扱われる悪循環が生まれています。
健康そうに見えてもリスクがある

店頭で元気そうに見えるペットでも、その健康状態は保証されているとは限りません。
オークション段階や流通過程でのストレスにより、潜在的な病気を抱えている場合もあります。
また、親兄弟から早期に引き離された影響で、社会性が未熟なまま成長してしまい、問題行動を起こしやすくなることも。
特に、社会化期(生後3〜12週)に適切な接触や学習ができなかった個体は、人間や他の動物とのコミュニケーションに問題を抱えやすく、しつけが難しくなるケースがあります。
さらに、近親交配や乱繁殖による遺伝性疾患(心疾患、関節の異常、視覚障害など)を持つ個体も見受けられますが、購入時点では発見できないことがほとんどです。
これらはペットショップという販売形式の構造的な課題とも言えます。
なぜ日本ではペットショップ文化が根強いのか

日本では「ペットは店頭で買うもの」という文化が長年根付いてきました。その背景には、店舗数の多さ、手軽さ、そして販売促進のうまさがあります。
商業施設内にある店舗や、子ども連れでも入りやすい明るい雰囲気など、消費者の心理をよく理解したビジネスモデルが浸透しています。
また、動物愛護に関する教育が十分に普及していないことも影響しています。
義務教育段階で動物の命について深く学ぶ機会が乏しく、命の重さや正しい飼い方についての知識が不足したまま大人になるケースも少なくありません。
一方、ペットショップ側もビジネスである以上、売上を重視せざるを得ません。
販売ノルマや在庫管理の観点から「商品」として扱われる動物たちの存在は、根本的な構造改革が必要であることを示しています。
諸外国のペット販売事情と法整備
ドイツ:ペットショップでの販売は禁止
ドイツでは動物保護法により、犬猫のペットショップ販売が禁止されています。
代わりに「ティアハイム」と呼ばれる保護施設から譲渡するのが一般的で、施設数も充実しています。また飼育希望者は、飼育環境や責任能力を問われ、簡単には譲り受けられません。
イギリス:ルーシー法で販売規制
2019年に施行された「ルーシー法(Lucy’s Law)」により、生後6ヶ月未満の子犬・子猫を第三者の業者が販売することが禁止されました。
これにより、ペットを迎える際はブリーダーや保護施設からの直接譲渡が基本となり、劣悪な繁殖業者の撲滅が進められています。
アメリカ:州ごとに規制強化
連邦レベルではなく、州ごとの法整備が進んでいます。
例えばカリフォルニア州やニューヨーク州では、ペットショップで販売できるのは動物保護団体から譲渡された犬・猫に限られます。
これにより、パピーミル(劣悪繁殖場)からの仕入れを制限し、保護動物の譲渡を促進する動きが広がっています。
日本の現状
依然としてペットショップによる生体販売が主流であり、規制はあるものの実効性に乏しい現状があります。
2020年に改正された動物愛護管理法では、8週齢未満の犬猫の販売禁止やマイクロチップの義務化など一定の前進がありましたが、販売自体を制限する動きは本格化していません。
まとめ:命と向き合う選択を

「ペットショップは悪い」と一括りにするのは、少し短絡的でしょう。
重要なのは、どこで出会ったかよりも、その命にどう向き合うかです。
販売の仕組みに課題があるのは事実ですが、私たち飼い主一人ひとりが「どのような環境でその命を迎えるか」をしっかりと考え、適切な知識と準備を持って責任を全うすることが何より重要です。
例えば、必要な医療ケアやしつけ、終生のケアに対する覚悟を持つなど。
こうした行動が広がれば、ペットショップ業界も少しずつ変わり、より良い方向に向かうでしょう。
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